ケインズ政策とは、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズの理論に基づく財政政策です。
ケインズ政策がスタンダードとなる前は、多くの政府はセイ法則という仮説に従っていました。
セイ法則
セイ法則とは、「あらゆる経済活動は物々交換にすぎず、需給が一致しなくても価格は自動的に調整される。そして最終的には需給は一致する。よって、需要(国家の購買力)を高めるには、価格が下がるか供給が増えればよい。そしてそれはほうっておけば自然に適正になるよう調節される。」というものです。
この考え方は基本的には自由放任主義で、ジャン・バディスト・セイが提唱しました。
ケインズ理論
1929年にニューヨークで株価の大暴落から大恐慌が起こりました。この影響はヨーロッパ、日本にもすぐに波及していきます。アメリカでは4人にひとりが失業するといった事態に陥り、これはセイ法則では解決できないものでした。
セイ法則の考え方に則ると、失業の解決のためには賃金が下がればよい(価格の調整)という結論になります。
しかし、労働者の賃金が何度も切り下げられたにもかかわらず失業率は下がりませんでした。これは「労働力の需要が減少し、企業が賃金の切り下げを行いたいと考えても、労働者はある水準以下の切り下げは同意しない」ことを意味します。ケインズはこのことを「賃金の下方硬直性」と呼びました。
有効需要の創出
有効需要とは、購買力に基づいた需要のことです。一般的には、経済全体で見た需要のことを指します。
ケインズは、政府が公共事業あるいは減税などを通じて有効需要を発生させることでGDPを増加させることができると唱えました。このとき、政府支出の増加分以上にGDPが増加することを乗数効果といいます。
深刻な失業の中、政府によって意図的に需要を発生させて雇用を改善させるという考え方です。
乗数効果
- 企業や政府がインフラ事業などの公共投資を増やす。
- 国民所得が増加
- 消費が増える
- さらに国民所得が増加
- さらに消費が増える
政府が一時的に財政支出を増加させることによって、民間の消費活動を刺激することを、誘い水理論(スペンディングポリシー)といいます。
ケインズ政策
上述のようなケインズ理論にもとづいた政策により、政府は景気変動の調節ができるようになりました。
有名なケインズ政策としては、ルーズベルト大統領のニューディール政策や日本の高橋是清財政(日銀引き受けによる軍事予算【政府支出】の増額など)、ドイツのアウトバーン建設などがあります。
不況時には赤字国債を発行してでも減税や公共事業を拡大します。逆に景気が過熱しているときには、増税や公共支出の縮小が行います。これによって景気の波がなだらかになるとされます。
所得の再配分
ケインズ理論のうちの累進課税によって高所得者層から膨らんだ富を徴収し、低所得者層へ年金や保険制度などの社会保障を行うことで格差を軽減することができるようになりました。適度な再配分は治安の維持にも役立ちます。
ケインズ批判
ケインズ批判はいまだにたびたび起こるようですが、時代ごとに背景が違うので同列に論じるのは非常に難しいことが多いです。
有名なのはスタグフレーション(不況下でのインフレ)が先進国で続出した際に起きた新古典派による批判です。もともとケインズ理論は短期の経済学なので新古典派などとの相性が悪いともいえます。
ケインズは失業を減らす代わりに緩やかなインフレ(物価上昇)を容認していました。しかし石油危機が起き、年率20~30%の急激なハイパーインフレが起こると、不況とインフレを合わせたスタグフレーションが悪化していきました。ケインズ理論ではこのスタグフレーションが説明できなかったので批判されたというわけです。
日本では、不況を克服するための公共事業に多くの企業や族議員がたかるようになります。
不況時の解決策として発行された赤字国債は好景気時にも発行されるようになり、目的と効果が不明確な公共事業が次第に目立つようになります。(ただし、不況時にはどんな公共事業でも景気刺激には役立ちます)
現時点(2010年)で日本の財政赤字は1100兆円を超えています。ちなみに民主党はムダを省くというのがその主張の柱だったのですが、前政権の麻生政権以上に赤字国債を発行しており、野党時代の主張とのブレ幅がひどく、批判が集まっています。
参考文献-初歩の経済学
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